高熱隧道
引き続き自分の中の黒部認識を深めるために読んだ。フィクションであることを理解した上で読んでも、その徹底した調査と考証の上に書かれた本作のリアリティと、説得力は圧倒的だった。
作中の登場人物が魅力的で、かつ作り上げられた感を感じさせないので、まるで史実を確認しているような気になる。だけれどこれが、単なる歴史書や資料の確認にならないのは、本作が単なる小説ではなく、ドラマでもない。歴史的な事実や、それに係る描写が非常に誠実で、重みのあるものだからだと思う。
黒四は世紀の大事業だなんだと騒がれ、今でもテレビで特集が組まれたりするが、本作が扱う黒三は長年日本の汚点として詳しく言及されて来なかった。それは今も深い禍根を残している、日本の侵略の歴史なんかと同じ構図だった。その体質は今も何も変わっていない。都合の悪いことは語らず、時と共に疲弊させ、忘れさせる。本作のような良心に出会えて本当に良かったと思う。
黒部が切っ掛けとなったけれど、他にも吉村昭の作品を読んでみたいと思った。
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