輝ける青春

輝ける青春 プレミアム・エディション輝ける青春 プレミアム・エディション
サンドロ・ペトラリアマルコ・トゥリオ・ジョルダーナ ルイジ・ロ・カーショ

ジェネオン エンタテインメント 2006-04-21
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おすすめ平均

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 ★★★★★
 素晴らしい!の一言。前に友達から良いという話は聞いてたんだけど、6時間という長時間の映画ということで、しかも「ロード・オブ・ザ・リング」のように続編、という形でなく、一気に6時間。しかも内容はというと「ある家族」の40年間を描く…という触れ込みで、見始めて5分でダメかも、ってなる映画の可能性もあるなぁ、と敬遠していた。
 今回休日ということもあって、少しまとまって時間が取れそうだったので思い切って見てみることにした。これで最初の30分でピンと来なかったらやめようと…。しかし見始めて10分もしないうちにすっかり熱中してしまい、気付けば前編終了!!あれ!!??予想外だった。
 ストーリーとしては、イタリアの「カラーティ家」という一家の人々の姿を、40年間という長い時間と背景とともに描くというもの。中心となるのはカラーティ家の兄弟、ニコラとマッテオ。同じベクトルを持ちながらも、そのキャラクターや気質というものが全く正反対の二人。ある時出会った精神を患ったジョルジアという少女とジョルジアのおかれた状況に対し、救うことが出来なかったという体験から、お互いに違う手段を取りながら、正しく生きるということを意識していく…。
 一つの家族を通して、40年という時間軸の下、イタリアや世界の価値観をはじめとした、社会の動きそのものも描かれている。共産主義と過激派の成立と構造*1、精神医療の抱える問題と、イタリア精神医学界の変革*2、イタリアの都市コミュニティと文化*3地域格差…様々なドラマや描写を通じて、イタリアそのものが、世界が映し出されている。見る人によって、惹き付けられるポイントはこのようにたくさんある。だがどんなときも基本は人間、個人だ。この作品は、一人一人を丁寧に描き、喜怒哀楽、人生というのはこういうものだ、というものを一つ一つ描いていった集大成のような映画だ。
 人生とは短くも長く、儚くも美しい。人間として生を全うすることは困難の連続ではあっても、その先にある幸福に対して希望を持つことが出来る、それが人間を人間たらしめている基本的な能力というか、本能の部分なんだろうなぁ、と感じていた。誰しも道を踏み外すことはあっても、正しくありたいという気持ちはあるのかな、と。その正しさが、本当に正しいかどうかは、その時々の歴史や社会背景に左右されることももちろんあるけれど、絶対に変わらない、普遍的な正しさというものも確かにあるのだ。
 自分はどうあるべきか。どう生きていきたいか。自ずと答えは見えてくるはず…。人生は上々だ。 


 映画とは直接関係ないけれど、連合赤軍の事件を切っ掛けに興味を持った共産主義という宗教。対して権力や資本主義というレールの下の自分の立ち位置。どちらが主義として正しいか、それは自分には判断できない。ただ、より良く生きる、というベクトルは同じでも、異なる手段や価値観もあるということを、まず認めなければならない。答えは一つだと自らの正義を振りかざし、他を排するような価値観が、誰に幸せをもたらすだろうか。
 時代は流れても、そこに生きる人々と人生は美しい。ただどうして、世界は変わることが出来ないんだろう。

*1:現状に対する打開策としての共産主義はあり得るのかも知れない。ただ倫理を失った主義主張は、ただのテロに過ぎない。それはどんな理由をもっても正当化できないし、許されない。

*2:大学で精神医学を担当していた講師の方が、イタリアで精神医療に携わっていた方で、当時初めてイタリアの状況を知ったときにもの凄く驚き、感動したのを覚えている。それに比べて心神喪失医療観察法などの悪法をいつの間にか通してしまっている日本の後進性といったら…言葉もない。

*3:言葉だけでなく気質なども…これについてはもっと調べてみたいと思った。